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在宅歯科医療の限界と当院での対応

先日、在宅介護されているご家族から歯科治療の依頼がありました。
同じ家族から昨年に続き2回目の依頼でした。

往診専門医により口腔ケアを継続していたとのことでしたが、患者さんの痛みや家族の治療希望があった時に歯科医との間に意見の相違があり、対応せず改善できなかった、という前回と同じトラブルでした。そんな状態で私に治療の依頼がありました。

『往診歯科治療』と聞いて思い出すのは、20年ほど前、高齢者歯科診療科に在籍し日本医科大学付属病院のホスピスに依頼を受けて往診をしていた時のこと。

そこでは入院病室の最適な環境でない中、入れ歯の治療を行い最善を尽くしましたが、対症療法しかできず、原因療法ができないという満足のできない治療だったことを思い出しました。
現在では口腔科があり、歯科用診療台もあるようなのでそのような診療ではないでしょう。

在宅医療への歯科治療の介入が一般化してきましたが・・・

現在、医科病院と歯科医院も連携がなされ、在宅医療に歯科医療があることが普通になってきました。また、肺炎予防のための専門医による口腔ケアはとても大切なことも認知されています。
在宅介護をしている家族の方にとっては願ったりのことでしょう。

しかし、私は在宅歯科医療の全てが良いとは考えておりません。

決して良くない治療環境の中で限られた時間では、原因を改善する治療は、大変難しいからです。
そして、全身状態を考慮したりや家族ケア状況、病状によっては搬送して集中処置を必要と判断できる総合的で経験豊富な知識が必要だからです。

今回の患者様へのひかり歯科の対応

依頼のあった患者さんは脳梗塞後に要介護度5になり、認知症のある80代の方です。ご自分では意思が伝えられず、家族がくみとって医師に伝えるような状況です。
また、健康時に歯科医療への意識は低かったらしく、放置された問題が現場の悪化に拍車をかけていました。ですが、幸いにも介助しての食物の経口摂取ができ、嚥下障害はありませんでした。

患者様が医院へ来院されたときの様子

主訴の部位は昨年と今年では違う場所でした。往診専門歯科医は昨年は抜歯しなくても良いところを抜歯した方が良いと診断し、今年は抜歯しないと改善しないところを、よく歯磨きしてくださいと指導だけされたそうです。

その対応では全く改善が見られず、ご家族はとても不満を持ち、患者さんは食事の量が減っていったようです。歯科医師の診断で栄養不足を招きかねない状態でした。

このような往診専門医は、在宅介護の医療としては全く意味がありません。その対応は、治療環境と時間の制約の中で、自分に都合の良い治療を家族の意見を聞かず勧めたものでしかありません。全ての医師がそのような対応ではないと思いますが、実際に起きていることも事実です。私はこの医師とは反対の診断をし、歯科医院で対応して改善しました。

家族は少しでも快適に療養生活を送らせたいと思い、私たち歯科医師は嚥下障害や誤嚥性肺炎を予防するためにも口で食べることを死守しなければなりません。

歯科の在宅医療は医師と家族のコミュニケーションから口腔の継続管理の計画を立案し、それがしやすいように早期に重症の疾患があれば、体調の安定した時期に原因療法をすべきだと思います。
そのためには、在宅ではなく設備の整った歯科医院での安全な治療を集中的に行うことが、その後の重症化の予防になるでしょう。

在宅歯科医療はまだまだ道半ば

国の政策で在宅医療が勧められている中で、歯科医療はどのようになっていくのでしょう。上記のような例を起こさないためにも在宅歯科医療の教育が必要ではないでしょうか。

また、現在、日本の死亡原因3位の肺炎は口腔内細菌の不顕性誤嚥からが原因の一つであり、高齢者に多いことが知られています。その治療の衛生管理や嚥下障害の改善は歯科医師しかできないのですが、適切な治療法は歯科医でもまだ認知が低いようで道半ばであるのが現状なのです。

千葉県松戸市 ひかり・歯科クリニック 院長 岩田